経験ないけど

 急性喉頭蓋炎など上気道閉塞時の緊急気道確保の方法として輪状甲状靱帯切開というのがある.米国の統計では,救急医が平均して一生に一度経験するか否かの頻度と言われている.

 私には経験ないし,周囲にも経験者はいない.もしも,どうしてもせざるを得ない状況になったら,試みるしかないが,悪くすると以下の危険性がある.

  ①処置に失敗,患者死亡
  ②処置は成功,しかし最終的に患者は死亡
  ③(輪状甲状靱帯切開の)経験がないからと他院に転送中に患者が死亡

 いずれの場合でも民事で訴えられる可能性はある.その上,逮捕までされるかもしれない,ということだ.マスゴミは以下のように書くだろう.

①or②の場合
 E_physician容疑者は,大量出血・窒息する可能性を知りながら,十分な輸血の確保をせず輪状甲状靭帯切開を施行.甲状腺を誤って傷付け大量出血で○○県△△市の患者を死亡させた疑い.同容疑者は輪状甲状靭帯切開の経験が一度もなかったという.

③の場合
 上気道閉塞という超緊急事態であるにも関わらず,救急医として必要な処置を怠り,無理な転送を強行しようとした疑い.

 救急に携わる人間なら,③の選択肢はあり得ず,初めてでもやると思う.誰だって最初は初めてで,しかもその機会自体が希なんだけれども.

 あるいは,普段から適応を拡大して(必要もないのに)やたらと輪状甲状靭帯切開をやるとか.ある地域の救命士から聞いた話では,その地区の救急医が現場に出動した場合,「気切になってることが多いんですけど...そんなに多いものですか?」と聞かれたことがある.
 「それは救急医がやりたいからやってるんだよ」
と答えた.
 ただ,腕を磨くには,(少し適応を拡大してでも?)普段からやっとかないと,いざという時できない,ってのも事実ではある.だからと言って,必要もないのに喉に孔開けられることを患者は納得しないだろうし,自分だったらしない.

 過去の判例からすると,切開ではなく穿刺にしといた方が無難のようだ.


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by E_physician | 2006-02-26 18:18 | 救急


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